2026年6月17日 (水)
医学トリビア研究所Medical Trivia Lab
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社会・スポーツ

【W杯】応援チームが勝つと、ファンのテストステロンが上がる?

W杯を観た男性ファン21人の唾液テストステロンを試合前後で測定。勝ったチームのファンは上昇、負けたチームは低下。観戦は心身を巻き込む"参加"だった。

【W杯】応援チームが勝つと、ファンのテストステロンが上がる?

テレビの前で拳を握り、ゴールの瞬間に飛び上がる。自分はピッチに立っていないのに、なぜあんなに体が熱くなるのでしょう。実はその高ぶりは「気分」だけの話ではないかもしれません。応援チームの勝敗によって、ファンの体内ホルモンそのものが動いていた——そんな研究があります。1998年、W杯サッカーを観戦した男性ファンの唾液を調べた論文を紹介します。

なぜホルモンが動く?

動物の世界では、オス同士が縄張りや順位を争うとき、勝者は男性ホルモン「テストステロン」が上がり、敗者は下がる傾向が知られています。勝てば次の挑戦に向けて攻めの姿勢を、負ければ無謀な再挑戦を避ける守りの姿勢を——ホルモンが体を「闘いモード」に調整しているわけです。

面白いのは、人間ではこの反応が自分が直接戦っていなくても起きうる点です。研究者たちが注目したのが「栄光に浴する(basking in reflected glory)」という心理。強いチームや成功した他者と自分を重ね合わせ、その勝利を自分のことのように誇る感覚です。これまで純粋に「心の働き」と考えられてきたこの現象が、もしかすると体の生理反応まで巻き込んでいるのではないか。勝敗を代理の闘いとして体が受け取り、ホルモンが動くのではないか——それを確かめようとしたのです。

何がわかったか

研究では2つの場面でファンの唾液テストステロンを測りました。結果はそろって同じ方向を向いていました。

  • 勝ったチームのファンは、試合後にテストステロンが上昇した
  • 負けたチームのファンは、試合後にテストステロンが低下した
  • これは大学バスケの観戦でも、W杯サッカーの観戦でも同じ傾向だった
  • つまり観戦の影響は、気分や自尊心の変化だけにとどまらず、ホルモンという身体レベルにまで及んでいた

自分は何もしていない、ただ観ていただけ。それでも勝者側の体は上向き、敗者側の体は下向きに振れていたのです。

どう調べたか

論文は2つの研究からなります。1つ目は伝統的なライバル校同士のバスケットボールの試合を観た男性ファン8人。2つ目が本題のW杯サッカーで、国を背負ったライバル同士の試合をテレビ観戦した男性ファン21人が対象でした。

方法はシンプルです。参加者から試合の前と後に唾液を採取し、そこに含まれるテストステロン濃度を測定。採血ではなく唾液なので、観戦に没入したままサンプルを集められます。そして勝者側ファンと敗者側ファンで、前後の変化を比べました。結果は前述のとおり、勝者側で平均が上がり、敗者側で下がったのです。

ただし冷静に

胸が躍る結果ですが、受け取り方には注意が必要です。

まず、人数がごく少ないこと。W杯の研究はわずか21人、バスケに至っては8人です。少人数の実測は、たまたまの偏りに左右されやすく、「観戦すれば誰でも、毎回必ず同じ反応が起きる」と保証するものではありません

対象も男性に限られ、唾液の採取タイミングや当日の体調、飲食、興奮の度合いなど、テストステロンを揺らす要因は他にもたくさんあります。1998年という古い研究でもあります。あくまで「こういう傾向が観察された」という最初の一歩として読むのが正確です。

それでも面白いのは

それでも、この研究が示すものはちょっとワクワクします。私たちは観戦を「受け身の娯楽」と思いがちですが、体のレベルでは違うのかもしれません。ソファに座って声援を送るその瞬間、あなたの内分泌系は静かに"参加"しているのだとしたら。勝てば前のめりに、負ければうつむきがちになる——あの観戦後の高揚や脱力は、気のせいではなく体の反応だった可能性があるのです。

W杯のたびに国中が一喜一憂するのも、案外、理にかなった現象なのかもしれません。次に贔屓のチームを応援するときは、自分の体が静かに闘っていることを少し思い出してみてください。


出典:Bernhardt PC, Dabbs JM, Fielden JA, Lutter CD. "Testosterone changes during vicarious experiences of winning and losing among fans at sporting events." *Physiology & Behavior*. 1998;65(1):59-62.(DOI00147-4)、PubMedより取得)

※この記事は研究の紹介であり、医療助言ではありません。

SOURCE / 出典・論文情報
Bernhardt PC, Dabbs JM, Fielden JA, Lutter CD. Physiology & Behavior. 1998;65(1):59-62. / DOI: 10.1016/s0031-9384(98)00147-4
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