3日間の森林浴で、がんを殺すNK細胞の活性が約50%上がった
東京の健康な男性12人が2泊3日の森林浴をしたところ、がん細胞を攻撃する免疫細胞「NK細胞」の活性が前後で約50%上がった、という小さな研究の話。
「森の中を歩くと、なんだか気持ちいい」。多くの人が感じるこの実感に、免疫の数字で迫った小さな研究があります。東京の健康な男性たちが2泊3日かけて森を歩いたところ、がん細胞を攻撃する免疫細胞「NK細胞」の活性が、森林浴の前後で約50%も上がっていたというのです。日本発の「森林浴」が、リラックスだけでなく体の防御力にも関わるかもしれない——そんな入り口を開いた一本です。
なぜ森が免疫に関わるの?
NK細胞は「ナチュラルキラー細胞」の略で、体の中を見回りながら、がん化した細胞やウイルスに感染した細胞をいち早く見つけて壊す、いわば免疫のパトロール部隊です。この部隊が元気だと、できかけの異常な細胞を早めに片づけてくれると考えられています。
では、なぜ森を歩くだけでこの部隊が活気づくのでしょう。研究者たちが注目している仮説のひとつが、樹木が出す香り成分「フィトンチッド」です。スギやヒノキなどが身を守るために放つ揮発性の物質で、これを吸い込むことが免疫に良い影響を与えるのでは、と考えられています。もうひとつは、自然の中で過ごすことによるストレスの軽減。ストレスホルモンが下がると免疫の働きが回復しやすい、という流れです。ただしこの研究の時点では、どれが本当の主役かまでは特定されていません。
何がわかったか
東京の3つの企業から募った健康な男性たちに、2泊3日の森林浴ツアーに参加してもらい、その前後で血液を調べました。主な結果はこうです。
- 参加者12人のうち11人で、NK細胞の活性が森林浴後に上昇した
- その上昇幅は平均で約50%にのぼった
- NK細胞そのものの数も増えていた
- がん細胞を壊すときに使われる「武器」にあたる抗がんタンパク質(パーフォリン、グラニュライシン、グランザイムA/B)を持つ細胞も増えていた
つまり、攻撃部隊が「数」も「装備」も「やる気(活性)」も上がっていた、という三拍子そろった変化が見られたわけです。
どう調べたか
参加者は1日目の午後に森の中を2時間歩き、2日目は午前と午後に別々の森でそれぞれ2時間ずつ歩きました。血液は2日目と3日目に採取。比較のため、旅行前のふつうの勤務日にも同じ測定をして、これを「対照(くらべるための基準)」としています。NK細胞の活性や数だけでなく、細胞の中にある抗がんタンパク質まで丁寧に測っているのが特徴です。研究者らは、活性が上がった理由の一部は、NK細胞の数が増えたことと、こうした抗がんタンパク質が増えたことで説明できる、と結論づけました。
ただし、冷静に
魅力的な結果ですが、ここは落ち着いて受け止める必要があります。
まず、参加したのは健康な男性わずか12人。とても少人数で、女性や年齢の違う人、持病のある人に当てはまるかはわかりません。さらに、本人が前後の数字を比べる形が中心で、「森に行かなかった人」とくらべる本格的な対照群はほぼありません。そのため、上がった原因が森そのものなのか、それとも「旅行で日常から離れた」「よく歩いた」「ぐっすり眠れた」といった要素なのかを、この研究だけで切り分けるのは難しいのです。
観察された期間も短期で、効果がどれくらい続くのかも未知数です。「森林浴でがんが防げる」と言い切るには、もっと多くの人を対象にした、しっかり設計された研究が欠かせません。今回はあくまで「面白い手がかり」の段階だと考えてください。
それでも、気持ちいいのは
科学的にはまだ慎重に見るべき一本ですが、森を歩いて気分がほぐれる、よく眠れる、という実感そのものは多くの人が持っています。少なくとも、害のある話ではありません。週末に少し木の多い公園や緑地へ足を運んでみる——それだけでも、リフレッシュという確かなご褒美はついてきます。免疫の数字はおまけくらいに思いつつ、まずは深呼吸しに出かけてみるのは、なかなか良い選択かもしれません。
出典: Li Q, et al. Forest bathing enhances human natural killer activity and expression of anti-cancer proteins. *Int J Immunopathol Pharmacol*. 2007;20(2 Suppl 2):3-8.(PubMedより/DOI)
※この記事は研究の紹介であり、医療助言ではありません。