猫を飼った経験がある人は、心筋梗塞での死亡リスクが37%低かった
米国の4,435人を約20年追っかけた研究で、猫を飼った経験がある人は心筋梗塞での死亡リスクが約37%低かった。ただし観察研究で、因果はまだわかっていない。
ひざの上でゴロゴロ鳴く猫。あのおだやかな時間が、もしかしたら心臓にも関係しているかもしれない――そんな話です。アメリカの大きな調査を約20年も追いかけたところ、猫を飼った経験がある人は、心筋梗塞(心臓の血管が詰まる病気)で亡くなるリスクが約37%低かったという結果が出ました。最初に大事なことを言っておくと、これは「猫が心臓を守った」と決まったわけではありません。それでも、なかなか気になる数字です。
なぜ猫と心臓が関係するの?
まず、研究者がなぜこんなことを調べたのかという話から。これまでにも、ペットがそばにいるとストレスがやわらぐことや、血圧が下がることが、いくつかの研究で報告されてきました。心臓の病気は、強いストレスや高い血圧と深く関わっています。だから「ペットがいる人は、心臓の病気で亡くなりにくいのでは?」という予想が立てられたのです。
猫をなでているとき、なんだか気持ちが落ち着いた経験はありませんか。その「落ち着く感じ」が、長い目で見て心臓にやさしく働く可能性がある――そんな仮説を、今回の研究は確かめようとしました。あくまで「仮説」であって、まだ証明された仕組みではない、という点はおぼえておいてください。
何がわかったか
研究でわかったことを、数字で並べてみます。
- 調べた人数は、全部で4,435人。
- そのうち、過去または今、猫を飼っている人は2,435人(全体の約55%)。半分以上の人が猫と暮らした経験あり。
- 猫を飼った経験がある人は、心筋梗塞で亡くなるリスクが約37%低かった(相対リスク0.63、つまり0.63倍)。
- 脳卒中もふくめた心血管の病気で亡くなるリスクも、低くなる傾向が見られた(相対リスク0.74)。ただしこちらは「はっきり差がある」とまでは言い切れないギリギリのライン。
ポイントは、いちばんはっきり差が出たのが「心筋梗塞での死亡」だったこと。心臓の発作で亡くなるリスクが、猫の経験がある人で低めだったのです。
どう調べたか
この結果は、ただ一度アンケートを取って終わり、ではありません。アメリカの大規模な健康調査(NHANES II と呼ばれる調査)に参加した人たちを、なんと約20年にわたって追いかけました。だれが、どんな病気で亡くなったかを記録していったのです。
しかも研究者は、ただ猫の有無だけで比べたわけではありません。年齢・性別・人種・血圧・たばこ・糖尿病・コレステロール・体格(BMI)といった、心臓の病気に関係しそうな条件をそろえて計算しています。「猫を飼っている人のほうが、たまたま若かったから」といった、見かけの差をなるべく取りのぞこうとした、ということです。
ただし、冷静に
ここがいちばん大事なところです。この研究は「猫を飼うと心臓が守られる」と証明したわけではありません。
理由は、これが観察研究だからです。観察研究とは、人々をそのまま観察して比べるやり方で、「猫を飼うグループ」と「飼わないグループ」をくじ引きで分けたわけではありません。だから、猫そのものではなく、猫を飼える生活背景の違いが結果に影響している可能性が残ります。たとえば、落ち着いた住まいがあり、ペットを世話できるくらい心や生活に余裕がある人――そういう背景が、心臓にも良い方向に働いただけ、という見方もできるのです。
さらに、心血管全体の数字(0.74)は、統計的に「確かな差」とは言い切れないギリギリのものでした。数字をそのまま「効果」と受け取るのは早すぎます。
それでも面白いのは
それでもこの研究が面白いのは、身近な日常が健康と結びつくかもしれない、という視点をくれるからです。薬でも手術でもなく、「猫と暮らす」というありふれた経験に、研究者がまじめに目を向けた。その発想自体が新鮮です。
もちろん、健康のために無理に猫を飼う必要はありませんし、この研究はそれをすすめるものでもありません。ただ、ペットとの穏やかな時間が、私たちの体に思った以上の何かをもたらしている可能性――それを科学が少しずつ確かめようとしている、というのは、なんだかうれしい話だと思いませんか。次にあなたが猫をなでるとき、そのゴロゴロが少しだけ違って聞こえるかもしれません。
出典:Qureshi AI, et al. "Cat ownership and the Risk of Fatal Cardiovascular Diseases. Results from the Second National Health and Nutrition Examination Study Mortality Follow-up Study." J Vasc Interv Neurol. 2009;2(1):132-5.(PubMed PMID: 22518240 / PMC3317329。本記事はPubMedから取得した情報に基づいています)
※本記事は研究の紹介であり、医療上の助言ではありません。