ほぼ毎日入浴する人は、心血管病リスクが28%低かった
日本人3万人を約20年追跡。ほぼ毎日湯船に入る人は週0〜2回の人より総心血管病リスクが約28%低かった。ただし観察研究で因果ではない点に注意。
一日の終わりに湯船で「ふぅ」
仕事を終えて、温かいお風呂にゆっくり浸かる。多くの日本人にとって、入浴は単なる体を洗う行為ではなく、一日の疲れをほどく大切な時間です。そんな当たり前の習慣が、実は心臓や血管の健康とも関わっているかもしれない――そんな研究が報告されています。
日本人およそ3万人を約20年にわたって追跡した大規模な研究で、ほぼ毎日湯船に入る人は、週に0〜2回しか入らない人にくらべて、総じて心血管病になるリスクが約28%低い傾向が見られたのです。シャワーで済ませがちな人にとっても、湯船派の人にとっても、ちょっと気になる話ではないでしょうか。
なぜ湯船が心臓に関係するの?
そもそも、なぜお風呂が心臓や血管と関わるのでしょうか。
カギは「温熱」にあると考えられています。湯船に浸かって体が温まると、血管が広がり、血のめぐりがよくなります。これは軽い運動をしたときに体に起こる変化と似ていて、血管にとっての「やさしい刺激」になり得ます。研究者らは、こうした血行動態(血液の流れ方)の改善が、長い目で見て心血管病を防ぐ方向にはたらく可能性を指摘しています。
さらに、温かいお湯にゆったり浸かることで副交感神経が優位になり、リラックスしてストレスがやわらぐこと、そして寝つきや睡眠の質が整いやすくなることも、心臓にとってはプラスに働くかもしれません。あくまで「仕組みの仮説」ですが、毎日の入浴が体に与える影響は、思っているより小さくないのかもしれません。
何がわかったのか
研究で示された主な数字を整理すると、次のとおりです(ほぼ毎日入浴する人と、週0〜2回の人を比べた値)。
- 総心血管病リスク:約28%低い(ハザード比 0.72)
- 脳卒中(全体):約26%低い
- 脳内出血:約46%低い
- 突然の心臓死:差は見られなかった
総じて、入浴の頻度が多い人ほど心血管病になりにくい、という関係が浮かび上がりました。一方で、すべてに差があったわけではなく、突然の心臓死については入浴頻度との関連は見られませんでした。「お風呂が万能」というより、「ある種のリスクと関係がありそう」という、慎重な読み方が必要です。
どうやって調べたのか
この研究は、日本人を対象にした大規模なコホート研究(多くの人を長期間追いかけて、生活習慣と病気の関係を調べる方法)です。
対象になったのは、調査開始時に心血管病やがんの既往がない、40〜59歳の男女3万76人。1990年から2009年まで、およそ20年にわたって追跡されました。参加者を「週0〜2回」「週3〜4回」「ほぼ毎日」という入浴頻度のグループに分け、その後にどれくらい心血管病が起きたかを比較しています。
追跡期間中には、合わせて約2,000件の心血管病が記録されました。年齢や血圧、喫煙、食事などの影響をできるだけ統計的に取り除いたうえで、入浴頻度との関係が分析されています。サンプルが大きく、追跡期間も長いことが、この研究の強みです。
ただし、冷静に受け止めたい
ここは大切なポイントです。この研究は観察研究であり、「入浴が心血管病を防ぐ」という因果関係を証明したものではありません。
たとえば、もともと健康で体力のある人ほど、毎日きちんと湯船に入る余裕があるのかもしれません。逆に、体調が思わしくない人は入浴の頻度が下がりがちです。つまり「健康だから毎日入浴できる」という逆向きの関係(逆の因果)が、結果に影響している可能性は否定できません。また、日本特有の住環境や生活様式が背景にあるため、そのまま他の国に当てはめられるとも限りません。
そして、健康効果とは別に注意したいのが入浴中の事故です。とくに冬場、暖かい部屋と寒い脱衣所・浴室との急な温度差で血圧が大きく変動する「ヒートショック」は、高齢者にとって深刻なリスクです。実際、冬は入浴関連の事故が増えることが知られています。脱衣所や浴室を暖める、お湯の温度を上げすぎない、長湯を避ける、家族に声をかけてから入る――こうした工夫は、入浴を安全に楽しむうえで欠かせません。
それでも、ちょっと嬉しい
因果関係が証明されたわけではない、という前置きは大事です。それでも、毎日の入浴という、多くの日本人にとってごく自然な習慣が、健康とゆるやかに結びついているかもしれないという報告は、なんだか少し嬉しいものです。
特別なサプリや運動器具を買い足さなくても、今日も湯船に浸かって体を温め、ほっと一息つく。その何気ない時間が、心と体の両方にとって悪くないらしい――。安全に気をつけながら、今夜のお風呂を少しだけ大切に感じてみるのも、いいかもしれません。
出典: Ukai et al., *Heart* 2020(PubMedより/DOI)
本記事は研究結果を一般向けに紹介するものであり、特定の治療・予防を勧める医療上の助言ではありません。持病のある方や体調に不安のある方は、入浴の習慣について医師にご相談ください。