2026年6月17日 (水)
医学トリビア研究所Medical Trivia Lab
← 一覧へ戻る
健康・栄養

健康にいちばんいい飲酒量は『ゼロ』だった

195の国と地域を解析した大規模研究が示したのは、健康リスクが最小になる飲酒量は『ゼロ』という結論。少量でも体にいいわけではない、その意味を冷静に読み解きます。

健康にいちばんいい飲酒量は『ゼロ』だった

「酒は百薬の長」「適量ならむしろ体にいい」——。長いあいだ、私たちはそう聞かされてきました。赤ワインを1日1杯、という習慣を健康法のように語る人も少なくありません。ところが、世界195の国と地域を対象にした大規模な解析は、その常識に静かに、しかしはっきりと疑問符をつけました。導き出された結論は、健康リスクがもっとも小さくなる飲酒量は「ゼロ」。つまり、健康だけを物差しにするなら、飲まないのがいちばん——という、少し身もふたもない答えだったのです。

なぜ「ゼロ」なのか

これまでも「少量の飲酒は心臓にいいかもしれない」という研究は数多くありました。実際、適度なお酒が一部の心血管疾患のリスクをわずかに下げる、という報告は存在します。ここが、飲酒と健康をめぐる議論をややこしくしてきた点です。お酒には、リスクを下げる側面と上げる側面の両方があるからです。

しかし健康は、心臓だけで決まるわけではありません。がん、高血圧や肝臓への負担、そして事故やケガ——お酒が関わる害は多岐にわたります。今回の研究が新しかったのは、これらをまとめて足し引きし、「すべての健康影響を合わせたとき、リスクが最小になる飲酒量はどこか」を計算しなおした点にあります。心臓へのわずかな恩恵を計算に入れてもなお、害のほうが上回る。だから最小点は「ゼロ」に落ち着いた、というわけです。

何がわかったか

研究が示した主なポイントを整理すると、次のようになります。

  • 飲酒は、2016年時点で世界の死亡・障害の「7番目」に大きい危険因子だった。
  • とくに15〜49歳の年代では、飲酒があらゆる危険因子の中で「1位」。この年代の男性の死因の12.2%、女性の3.8%が飲酒に関連していた。
  • 飲む量が増えるほどリスクは上がり、途中に「ここまでなら安全」という谷(安全域)は見つからなかった。
  • 50歳以上では、飲酒に関連する死亡のかなりの部分をがんが占めていた。
  • 全体を通して、健康への害がもっとも小さくなる飲酒量は「週0杯」だった。

「途中に安全な谷はない」という点が、この研究のいちばんのメッセージです。少なければ少ないほどよく、増えればその分だけリスクも積み上がっていく、という素直な関係が見えてきたのです。

どう調べたか

これは新しく人を集めて飲ませた実験ではなく、すでに世界中で行われた膨大な研究をつなぎ合わせた「メタ解析」です。研究チームは、694の飲酒量に関するデータと、飲酒のリスクを調べた592の研究を統合。アルコール1杯を「純アルコール10g」と定義し、195の国と地域、男女別・年代別に、飲酒に関連する死亡や健康損失を推計しました。

工夫もありました。お酒の販売量だけでは、旅行者の消費や統計に載らない自家醸造などを取りこぼします。そこでそうした分を補正し、さらに飲酒に関連する23の健康アウトカムについてリスクを計算しなおしたうえで、「全体の害が最小になる量」を割り出す新しい手法を開発しています。膨大なデータを束ねたからこそ、一国だけでは見えにくい全体像が浮かび上がったのです。

ただし、冷静に

ここで大事なのは、脅しすぎないことです。「ゼロが最小」と聞くと、まるで1杯飲んだだけで大病になるかのように感じてしまいますが、そうではありません。1日1杯程度での「絶対的な」リスク上昇は、実際にはごくわずかです。今日グラス1杯のワインを飲んだからといって、明日のあなたの健康が大きく揺らぐわけではない、というのは正直に押さえておくべき点でしょう。

また、これは観察研究を統合した解析です。お酒を飲む人と飲まない人とでは、食事や運動、喫煙、所得などの生活習慣も違いがちで、その影響を完全には取り除けません。「飲酒そのもの」と「飲む人の暮らし方」を、相関から完全に切り分けるのは難しいのです。だから「1杯で危険」と断じるのは行き過ぎ。一方で「少量なら増えない・むしろ得」とも言い切れない——研究が示したのは、その中間にある誠実な事実です。

それでも知っておきたい

整理するとこうなります。少量飲酒に、健康上の「お得な谷」はおそらく無い。けれど、1杯の害は決して大きくない。だからこの研究は「禁酒せよ」という命令ではなく、「お酒は健康法ではない」という前提の置きなおしと読むのが妥当でしょう。飲むこと自体には、味わいや人とのつながりといった、数字に表れない価値もあります。

大切なのは、「適量なら体にいいから」と健康を口実にして飲む必要は、もうない、と知っておくこと。そのうえで飲む量を選ぶのは、あなた自身です。常識が一つ更新された、というだけでも、知っておく価値はあるはずです。


出典:GBD 2016 Alcohol Collaborators. "Alcohol use and burden for 195 countries and territories, 1990–2016: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2016." Lancet, 2018.(PubMedより/DOI31310-2))

※本記事は研究内容の紹介であり、個別の医療・健康に関する助言ではありません。飲酒や健康について判断が必要な場合は、医師など専門家にご相談ください。

SOURCE / 出典・論文情報
GBD 2016 Alcohol Collaborators, Lancet 2018 / DOI: 10.1016/S0140-6736(18)31310-2
この話を60秒の動画で見る