2026年6月17日 (水)
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スポーツ医学

【W杯】「外せば負け」のPKほど、人は目を背けて外す?

W杯・欧州選手権・CLの全PK戦359本を映像分析。外せば負けの場面ほど選手はキーパーから目を背け、急いで蹴り、成功率も下がっていた。重圧と回避行動の関係に迫る研究です。

【W杯】「外せば負け」のPKほど、人は目を背けて外す?

サッカーのPK戦は、わずか数秒で勝敗が決まる残酷な舞台です。ゴールの大きさもキーパーとの距離も変わらないのに、ある選手は決め、ある選手は外す。違いはどこにあるのでしょう。ノルウェーの研究チームが、W杯・欧州選手権・UEFAチャンピオンズリーグの「歴史上すべてのPK戦」を映像で分析し、ひとつの傾向を見つけました。それは、「外せば負け」という最悪の重圧がかかる場面ほど、選手はキーパーから目を背け、急いで蹴り、そして実際に成功率も低かったというものです。

重圧と"チョーキング"とは

スポーツの世界では、普段なら難なくこなせるプレーが、ここ一番の場面でできなくなる現象を「チョーキング(choking=重圧で詰まる)」と呼びます。一流のプロでも起こります。

ここで鍵になるのが心理学でいう「回避動機」です。人は目標に向かうとき、「成功をつかみにいく」気持ちと、「失敗を避けたい」気持ちの両方を持っています。前者が強いと前向きに集中できますが、後者(=失敗を避けたい)が強くなりすぎると、その状況そのものから逃げたくなり、注意が散ってしまうと考えられています。PK戦という極限の場面で、この「逃げたい気持ち」がどう表れるかを、研究者は選手のしぐさから読み取ろうとしました。

何がわかったか

研究では、PKを「決めれば即勝利(ポジティブな場面)」か「外せば即敗退(ネガティブな場面)」かで分け、選手の行動と結果を比べました。わかったのは次の点です。

  • 「外せば負け」のネガティブな場面では、キーパーから目を背ける選手が増えた
  • 同じく、十分に間を取らず急いで蹴ってしまう選手も増えた(=待ち時間を縮めて早く終わらせようとする)
  • そして、ネガティブな場面の選手は、ポジティブな場面の選手より成功率が低かった

つまり、最も外したくない場面でこそ、人は無意識に「その場から逃げる」ような振る舞いをし、結果も悪くなっていた、という構図です。

どう調べたか

注目すべきは、その規模と手法です。研究チームは特定の試合だけを抜き出すのではなく、当時までにW杯・欧州選手権・UEFA CLで行われたPK戦をすべて集め、36回のPK戦・合計359本のキックを対象にしました。そのうえで一本ずつ映像を見て、「キーパーから目を背けたか」「準備して蹴るまでが速すぎないか」といった回避行動の有無を客観的に記録し、場面の重圧度や成否と照らし合わせたのです。世界最高峰の本番の舞台で、しかも網羅的にデータを取った点が、この研究の説得力を支えています。

ただし、冷静に

一方で、結果の読み方には注意が必要です。これは実際の試合映像を観察して関連を調べた研究であり、「回避行動をしたから外した」という因果関係を証明したわけではありません。重圧の大きい場面では、もともと難しさや相手キーパーの気迫など別の要因も絡みます。回避行動は、緊張の「原因」ではなく「表れ」のひとつである可能性も十分にあります。あくまで、極限の重圧下では人は回避的になりやすい、という心理傾向を示唆した知見として受け取るのが妥当でしょう。

それでも示すのは

それでもこの研究が私たちに教えてくれるのは、シンプルで実用的なことです。最も逃げ出したい場面ほど、人は文字どおり視線をそらしてしまう——だとすれば、対策の第一歩は「どこに目を置くか」を決めておくことかもしれません。PKならキーパーやボール、ゴールの一点。仕事のプレゼンや試験なら、手元の資料や最初の一言。逃げたくなる瞬間こそ、目線と呼吸を一拍そこに留める。それだけで、急いで「終わらせにいく」自分にブレーキをかけられるかもしれません。W杯のあの緊張は、私たちの日常の「ここ一番」とも地続きなのです。


出典:Jordet G, Hartman E. *Avoidance motivation and choking under pressure in soccer penalty shootouts.* Journal of Sport & Exercise Psychology. 2008;30(4):450-7. (PubMed DOI

※本記事は研究紹介であり、医療助言ではありません。

SOURCE / 出典・論文情報
Jordet G, Hartman E. Avoidance motivation and choking under pressure in soccer penalty shootouts. J Sport Exerc Psychol. 2008;30(4):450-7. / DOI: 10.1123/jsep.30.4.450
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