2026年6月17日 (水)
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健康・医療

【W杯】ブブゼラの近くで観戦すると、その場で聴力が落ちる?(実測研究)

南アフリカのプロサッカーで観客の聴力を試合前後で実測。満員の試合のあとで耳の反応が有意に低下し、ブブゼラを吹く人と1m以内の人で影響が大きかった。

【W杯】ブブゼラの近くで観戦すると、その場で聴力が落ちる?(実測研究)

「ウォーン」という、あの独特の重低音。2010年の南アフリカ・ワールドカップで世界中に知られた応援ラッパ「ブブゼラ」は、スタジアムを一体にする魔法の楽器であると同時に、近くにいる人の耳に静かな負担をかけていたかもしれません。南アフリカのプロサッカーで観客の聴力を試合の前後で実測した研究によると、満員の試合のあとには耳の反応が有意に低下し、ブブゼラを吹く人やそのすぐそばにいた人で影響が大きかったといいます。盛り上がりの裏側で、耳に何が起きていたのでしょうか。

なぜ音で聴力が落ちるの?

私たちが音を聞き取れるのは、耳の奥にある「蝸牛(かぎゅう)」という器官の中に、音を感じ取る細い細胞(有毛細胞)がびっしり並んでいるからです。この細胞は、いわば畳の上の草のようなもの。大きすぎる音という強い風に長くさらされると、しなって倒れ、いったん働きが鈍ります。

短時間ならまた立ち上がりますが、繰り返したり、あまりに強い音だったりすると、戻りきらなくなることがあります。これが騒音による聞こえの低下の入口です。コンサートやライブのあと、一時的に耳が詰まった感じや「キーン」という耳鳴りを覚えた経験がある人もいるはずで、それは細胞が疲れているサインと考えられています。

何がわかったか

この研究では、観客の耳の働きを試合の前後で実際に測りました。主な結果は次の通りです。

  • 混雑度の違う2試合を対象に、合計約29人(よく入った試合に19人、空いていた試合に10人)の聴力を前後で比較した。
  • 満員でよく入った試合では、観戦後に耳の反応(耳音響放射=DPOAE)の強さが統計的に有意に低下した(P=0.003)。一方、空いていた試合では同じ低下はみられなかった。
  • ブブゼラを吹いていた人は、試合後に耳の反応が有意に低下していた(P=0.002)
  • 吹いている人から1m以内に座っていた人も、同じく有意な低下がみられた(P=0.008)
  • 騒音にさらされすぎる危険を高める要因として、「ブブゼラを吹くこと」「吹く人のすぐそばにいること」「観客が多いこと」の3つが挙げられた。

つまり、同じ「サッカー観戦」でも、満員かどうか、ブブゼラとの距離がどうかで、耳が受ける負担はかなり違っていた、というわけです。

どう調べたか

聴力というと「音が聞こえたらボタンを押す」検査を思い浮かべますが、この研究で使われたのは「耳音響放射(DPOAE)」という方法です。これは、耳に音を入れたときに、健康な蝸牛がごく小さな音を「返してくる」性質を利用した検査。返ってくる音が弱くなっていれば、それだけ耳の感じ取る細胞が疲れている、と読み取れます。本人が「聞こえた」と答える必要がなく、耳の反応そのものを客観的に拾えるのが特長です。

研究チームは、混み具合の異なる2つのプロサッカーの試合で、各参加者の耳の反応を観戦の前と後に測定。あわせて試合中の騒音レベルや「騒音の浴び量」も計測し、どんな条件のときに耳の反応が落ちやすいのかを調べました。よく入った試合のほうが騒音レベルは高く、そこで耳の反応の低下が確認された、という流れです。

ただし、冷静に

ここは大事なところです。この研究は合計約29人という小規模な前後比較であり、「ブブゼラで難聴になる」と恒久的な聞こえの障害を証明したものではありません。測られたのは観戦直後の一時的な反応の変化が中心で、その後どこまで回復したかまでを長期に追ったものではありません。

また、対象は南アフリカの特定の試合であり、会場の構造や応援の文化、座席の位置などで状況は大きく変わります。今回の数字をそのまま「あらゆる観戦で必ずこうなる」と受け取るのは行きすぎです。あくまで「満員の試合や至近距離のブブゼラは、耳に負担をかけうる」という方向性を示した、初期の実測データとして読むのが妥当でしょう。

それでも役立つのは

とはいえ、結論はとてもシンプルで実用的です。大きな音に長くさらされる場面では、耳栓を使うのが望ましいということ。スタジアムの応援はもちろん、ライブ会場や花火の至近、騒がしい工事現場のそばでも同じ考え方が使えます。

耳栓というと「音楽や声が聞こえなくなるのでは」と心配になりますが、最近は会話や音楽の質を保ちながら全体の音量だけを下げる、ライブ用・スポーツ観戦用のタイプもあります。応援の一体感を楽しみつつ、耳という消耗品をいたわる。観戦のあとに耳鳴りや詰まった感じが出たら、それは耳が「少し休ませて」と言っているサインかもしれません。歓声の渦の中でこそ、自分の耳に少しだけ優しくしてあげたいものです。


出典:Ramma L, Petersen L, Singh S. "Vuvuzelas at South African soccer matches: risks for spectators' hearing." *Noise & Health*. 2011;13(50):71-5. DOI(PubMedより取得)

※この記事は一般的な情報提供であり、医療助言ではありません。

SOURCE / 出典・論文情報
Ramma L, Petersen L, Singh S. "Vuvuzelas at South African soccer matches: risks for spectators' hearing." Noise & Health. 2011;13(50):71-5. doi:10.4103/1463-1741.73995 / DOI: 10.4103/1463-1741.73995
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