サッカー選手は認知症が1.6倍?でもGKだけは増えない
スウェーデン1部の男子選手約6千人を一般約5.6万人と比較。選手は認知症が1.62倍。だしヘディングの少ないGKだけは差がなかった。
ワールドカップが近づくと、街角のテレビやSNSがサッカー一色になります。あの華麗なヘディングシュートに、思わず声を上げた人も多いはずです。けれど近年、その「頭でボールを当てる」という競技の根幹に、静かな疑問符がついています。スウェーデンの大規模研究によると、1部リーグの男子選手は将来の認知症リスクが一般の人の約1.62倍。ところが、ほとんどヘディングをしないゴールキーパー(GK)だけは、リスクがほぼ増えていなかったのです。
なぜ「ヘディング」が疑われるのか
サッカーは、競技の中で繰り返し頭にボールが当たる、数少ないスポーツです。1回のヘディングは脳震盪ほどの衝撃ではありません。しかし選手は練習と試合を通じて、生涯で何千回、何万回とボールを頭で受けます。こうした「小さな衝撃の積み重ね(サブコンカッション)」が、長い年月をかけて脳にダメージを残すのではないか——研究者たちは以前からそう懸念してきました。実際、欧米のサッカー協会では子どものヘディングを制限する動きが進んでおり、今回の研究もその安全性議論の延長線上にあります。
何がわかったのか
スウェーデン1部リーグの男子選手を、一般集団と比べた結果は次の通りです。
- 神経変性疾患(認知症やパーキンソン病などの総称)全体のリスクは 1.46倍
- そのうちアルツハイマー型を含む認知症は1.62倍と、最も明確に増えていた
- 一方、ヘディングの少ないGKは1.07倍で、一般集団とほぼ差がなかった
- フィールドプレーヤー(GK以外)は1.50倍で、GKより明らかに高かった
- 意外なことに、パーキンソン病はむしろ少なく(0.68倍)
- そして総死亡はわずかに低かった(0.95倍)
つまり「増えたのは主にアルツハイマー型の認知症」「GKだけはほぼ差がない」「パーキンソンはむしろ少なく、全体の死亡率は低い」という、一様ではない結果でした。GKとフィールドプレーヤーの差こそ、この研究の核心です。両者は同じハードな練習・遠征・生活を送りながら、決定的に違うのが「ヘディングの量」だからです。
どう調べたのか
研究チームは、1924年から2019年までにスウェーデン1部リーグで1試合以上に出場した男子選手を国の登録データから洗い出しました。最終的に対象となったのは6007人の選手(うちGKは510人)。これを、性別・年齢・居住地域をそろえた一般集団5万6168人と比較しています。病名は死亡診断書、入院・外来の記録、認知症治療薬の処方データから拾い上げました。膨大な国民登録を使った、信頼性の高い大規模コホート研究です。追跡期間中、選手の8.9%、一般集団の6.2%が神経変性疾患と診断されました。
ただし、冷静に読む必要がある
ここで立ち止まりたいのは、これが「観察研究」だという点です。選手と一般人を比べて差を見つけただけで、「ヘディングが認知症を引き起こす」と因果関係を断定したわけではありません。生活習慣や他の要因が影響している可能性も残ります。
そしてもう一つ、公平に書くべきことがあります。選手の総死亡率はむしろ低かったのです。これは、サッカーという運動そのものが心臓や血管の健康に良く、寿命にプラスに働くことを示しています。サッカーは決して「体に悪いスポーツ」ではありません。むしろ運動の恩恵は大きい。その上で、頭部への繰り返す衝撃という一点だけが、特定の認知症リスクと結びついている可能性が浮かび上がった——そう理解するのが正確です。
それでも、この研究が示すもの
因果は断定できない。けれど、「ほぼ同じ環境にいながらヘディングの少ないGKだけリスクが上がらなかった」という対比は、ヘディングの関与を強く示唆します。だからこそ、できる対策はシンプルです。とりわけ脳が育つ子どもの年代では、ヘディングの回数を減らす、正しいフォームを学ぶ、頭を打ったら無理をさせない——こうした配慮が現実的な意味を持ちます。
サッカーを悪者にする必要はありません。運動の利益は本物です。問われているのは「楽しさと健康を守りながら、いかに不要な衝撃を減らすか」という工夫です。次にヘディングシュートに沸くとき、その裏側にあるこうした研究のことも、少し思い出してみてください。
出典:Ueda P, et al. Neurodegenerative disease among male elite football (soccer) players in Sweden: a cohort study. *Lancet Public Health*. 2023;8(4):e256-e265.(PubMedより/DOI00027-0))
※本記事は研究内容を一般向けに紹介するものであり、個別の医療上の助言ではありません。健康に関する判断は医療専門家にご相談ください。