最高水圧で10年洗い続けたら直腸が潰瘍に?ウォシュレット使いすぎの症例
最高水圧で毎回5分以上・10年。ウォシュレットの使いすぎで直腸が全周性の潰瘍になった66歳男性の症例報告から、適度な使い方を考えます。
「お尻を清潔にしていただけ」のはずが
毎日のように使う、温水洗浄便座(ウォシュレット)。清潔で快適、便秘ぎみのときには助けにもなる――そんな身近な道具で、まさか直腸が傷つくとは思いません。
ところが、ある66歳の男性は、肛門の痛みを訴えて消化器内科を受診しました。大腸内視鏡で調べてみると、肛門の出口から下部直腸にかけて、全周性(ぐるりと一周)の炎症と潰瘍ができていたのです。原因として浮かび上がったのが、長年の「ウォシュレットの使いすぎ」でした。
便利な道具が、なぜここまで腸を傷つけてしまったのでしょうか。
なぜ「水」で潰瘍ができるのか
ポイントは、水流が当たる「強さ」と「時間」です。
ウォシュレットの温水は、ノズルから勢いよく噴き出します。やさしく短時間あてる分には、肌や粘膜への負担はわずかです。ところが、最高水圧で長時間くり返しあて続けると、話は変わります。水流は物理的な刺激となり、デリケートな肛門や直腸の粘膜を少しずつこすり、傷つけていきます。
肌を強い水流で何分も叩き続ければ、やがて赤くただれてくるのと同じイメージです。直腸の粘膜は皮膚よりもさらに薄くて繊細。刺激が積み重なれば、炎症から潰瘍(粘膜がえぐれた状態)へと進んでしまうことがあります。
何がわかったのか:症状と内視鏡の所見
この男性は、肛門のあたりの違和感と、悪化していく痛みを抱えて受診しました。
大腸内視鏡検査では、肛門管から下部直腸まで、全周性の炎症と潰瘍が確認されました。一部だけでなく、ぐるりと一周してただれているという、かなり進んだ状態です。
論文の著者らは、原因を詳しく検討した結果、これを過剰なウォシュレット使用による直腸潰瘍のまれな症例と報告しています。実は、ビデの使いすぎは、直腸粘膜脱症候群や孤立性直腸潰瘍といった病気との関連も指摘されており、決して「ありえない話」ではないのです。
どんな使い方だったのか
では、この男性はどれくらいの「使いすぎ」だったのでしょうか。
もともと便秘ぎみだったため、彼は排便のたびにウォシュレットを使っていました。その時間が、毎回5分以上。これを10年以上続けていたといいます。
さらに受診の少し前、下痢が続くようになると、使い方はいっそうエスカレートしました。最高水圧で、より長い時間あて続けるようになったのです。結果として肛門の痛みは悪化し、受診に至りました。
「強く・長く・毎回」――この組み合わせが、長い年月をかけて粘膜への負担を蓄積させていったと考えられます。
ただし、冷静に受け止めたい
ここで大切なのは、これが極端な使い方をした、たった1例の症例報告だということです。
論文によれば、日本では人口のおよそ半数が排便の前後にお尻を洗っているとされます。それでも、こうした重い直腸潰瘍はあくまで「まれ」。つまり、ふつうの使い方であれば、ウォシュレットは安全に使える道具です。実際、排便後の洗浄は手指の清潔さや局所の快適さに役立ち、便秘に効く場合もあると考えられています。
今回の症例は、「最高水圧・長時間・毎回・10年」という、かなり特殊な条件が重なったケース。1例の報告から「ウォシュレットは危険」と決めつけるのは行きすぎで、過度に怖がる必要はありません。
教訓:適度な水圧で、短時間で十分
身近な道具ほど、つい「もっと、もっと」と使い込みがちです。今回の症例が教えてくれるのは、シンプルな一点に尽きます。
水圧は弱め〜中くらい、時間は短く。お尻の汚れを落とすだけなら、それで十分です。便秘や下痢で困っているときに、強い水流でなんとかしようとあて続けるのは逆効果になりかねません。
そして、肛門に痛みや違和感、出血などが続くなら、洗い方を見直すとともに、早めに医療機関へ。便利で快適な道具だからこそ、「使いすぎ注意」の一言を、頭の片隅に置いておきたいですね。
出典:Nishiwaki et al, DEN Open 2024(DOI)。本記事はPubMedで取得した論文情報をもとに作成しています。
※この記事は一般的な情報提供であり、医療助言ではありません。気になる症状がある場合は医療機関にご相談ください。