2026年6月17日 (水)
医学トリビア研究所Medical Trivia Lab
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健康・医療

やさしい水流のビデは肛門をゆるめる?座浴と同じくらい圧が下がった

やさしい水流の電動ビデは、痔のケアで勧められる温座浴と同じくらい肛門の安静時圧を下げた。健康な40人の前後比較から見えた、洗浄と「ゆるみ」の関係を平易に解説。

やさしい水流のビデは肛門をゆるめる?座浴と同じくらい圧が下がった

やわらかい洗浄が、座浴の代わりになるかもしれない

痔や切れ痔(裂肛)のケアで、昔から「温座浴(おしりを温かいお湯にひたす)」がすすめられてきました。温めることで肛門のまわりの筋肉がゆるみ、痛みや負担がやわらぐと考えられているからです。では、私たちが毎日使っているおしり洗浄機(電動ビデ/ウォシュレット)でも、同じことが起きているのでしょうか。韓国のソウル大学のチームが、健康な40人を対象に、特別に作った「やさしい水流」のビデと温座浴を比べました。結果は、洗浄後の肛門の締まり具合(安静時圧)が、座浴とほぼ同じくらい下がる、というものでした。

なぜ「圧が下がる」とうれしいのか

肛門には、ふだん無意識にきゅっと閉じている筋肉(肛門括約筋)があります。この筋肉が常に強く締まっていると、痔や切れ痔の部位に負担がかかり、血のめぐりも悪くなって、治りにくくなると考えられています。

ここで効くのが「温める」「やさしく刺激する」という働きです。温かさや軽い刺激は、締まっていた括約筋をゆるめる方向に働くとされています。座浴がすすめられてきたのも、まさにこの「ゆるめる」理屈に沿ったものです。つまり、肛門の安静時の圧が下がることは、力みが抜けて筋肉がゆるんだサインであり、痔ケアでは望ましい変化と位置づけられます。今回の研究は、ビデの洗浄でもこの「ゆるみ」が起きるのかを、数字で確かめようとしたものです。

何がわかったか

研究で測られたのは、肛門の「安静時圧」。リラックスしているときにどれくらい締まっているかを示す数字です。

  • 洗う前の安静時圧は、ビデ群で90.2 mmHg、座浴群で88.1 mmHgとほぼ同じスタートでした。
  • 洗ってから3分後、ビデで71.3 mmHg、座浴で69.6 mmHgまで低下。
  • 洗う前を100%とすると、どちらも約78%まで下がりました(ビデ78.2%・座浴78.1%)。
  • この下がり方に、ビデと座浴で意味のある差はありませんでした(統計的に同等)。
  • なお、直腸の温度は上がらず、座浴のお湯の温度は途中で有意に下がっていました。

ポイントは、やさしい水流のビデが、温座浴と同じくらい肛門をゆるめたという点です。「お湯にじっくりひたす」ことと「短時間そっと洗い流す」ことが、安静時圧という指標では肩を並べたわけです。

どう調べたか

対象は症状のない健康なボランティア40人。同じ人が日を変えて、ビデと座浴の両方を試す形で比較しました(前後・群内比較)。

カギは、研究チームが今回のために特別に設計した電動ビデです。水温は38℃の温かいお湯、水流の力は10 mN(ミリニュートン)と、ごくごく弱い「噴水(ファウンテン)型」の流れ。市販の電動ビデの強い水流はかえって肛門を傷つけかねない、という問題意識から、あえて「やさしさ」に振った装置をつくっています。安静時圧は、肛門のいちばん締まりが強い場所(高圧帯)で測りました。

ただし、冷静に受け止めたい

ここはとても大切なところです。今回ゆるみを示したのは、研究用に「わざと水流を弱くした」特製ビデであって、家庭やトイレにある市販品の強い水流とは別物だと考えるのが妥当です。むしろ研究者は、強い水流は肛門を傷つけうると注意を促しています。「ビデで洗えば座浴の代わりになる」と、手持ちの機器を強モードで使ってよい、という話ではありません。

加えて、参加者は健康な40人だけで、痔や切れ痔の患者さんでの検証ではありません。同じ人の前後を比べた少人数の研究で、長く使ったときの効果や安全性まではわかっていません。安静時圧が下がったこと自体が、症状の改善や治癒に直結するかも、この研究だけでは結論できません。

それでも、この研究が示すこと

とはいえ、「やさしく温かい洗浄」が、座浴と同じように肛門の力みをほどきうる、という方向性を数字で示した意味は小さくありません。座浴は準備や時間の手間があり、お湯もすぐ冷めてしまいます(実際この研究でも座浴のお湯は途中で温度が下がっていました)。もし弱い水流の温水洗浄で近い効果が得られるなら、痔のセルフケアの選択肢として、より手軽で続けやすい方法になりうる――そんな可能性をのぞかせる結果です。

毎日使う洗浄機だからこそ、「強さ」より「やさしさ」。次にボタンを押すとき、水流が強すぎないか、少し意識してみてもいいかもしれません。


出典:Ryoo S-B, et al. *Techniques in Coloproctology* (Tech Coloproctol), 2015;19(9):535-540. (PubMedより/DOI: 10.1007/s10151-015-1350-1

※この記事は研究内容の紹介であり、医療助言ではありません。痔や切れ痔などの症状がある場合は、自己判断で機器の使い方を変える前に医療機関にご相談ください。

SOURCE / 出典・論文情報
Ryoo SB, et al. Tech Coloproctol. 2015;19(9):535-40. / DOI: 10.1007/s10151-015-1350-1
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