ウォシュレットで痔になる?1万人を3年追っても増えなかった
ウォシュレットを使うと痔になる、という噂。約1万人を3年追った日本の調査では、痔も泌尿生殖器の感染も習慣使用で有意には増えませんでした。逆因果の話を含め冷静に解説します。
「ウォシュレットを使いすぎると痔になる」「肛門がふやけて感染しやすくなる」——温水洗浄便座が当たり前になった日本では、こんな噂を一度は耳にしたことがあるかもしれません。気持ちよくて手放せないけれど、本当は体に悪いのでは? そんな不安に、約1万人を3年間も追いかけた日本の調査がひとつの答えを出しています。結論から言えば、習慣的に使っても痔や泌尿生殖器の感染が有意に増えることはありませんでした。
なぜ「痔になる」と言われるのか
噂の出どころのひとつは、これまでの「ある一時点で大勢を調べる」タイプの調査です。そうした横断調査では、たしかにウォシュレットをよく使う人ほど痔や肌のトラブルが多い、という関連が見えることがありました。
ところが、ここには落とし穴があります。痔や肛門のかゆみに悩んでいる人ほど、患部を清潔にしたくてウォシュレットをよく使う、という流れがあり得るのです。つまり「使うから痔になる」のではなく「痔だから使う」。原因と結果が逆になっているかもしれない——これを逆因果と呼びます。一時点を切り取った写真では、どちらが先かを見分けられないのです。
何がわかったか
そこでこの研究は、同じ人を3年かけて追いかけ、「最初は症状がなかった人が、その後に新しく発症するか」を見ました。ポイントは次のとおりです。
- 痔の新規発症は、習慣的にウォシュレットを使う人で有意には増えなかった
- 膀胱炎などの泌尿生殖器の感染も、習慣使用で有意には増えなかった
- 一方で男性に限ると、肛門まわりの皮膚の刺激(かゆみ・ヒリつき)を新たに訴える人が、習慣使用者で約1.36倍多かった(95%信頼区間 1.06〜1.75)
- 横断データで見えた「使う人ほど痔が多い」などの関連の多くは、逆因果で説明できると考えられた
つまり、最大の心配だった「痔」と「感染」については、増えるという証拠は出ませんでした。気になるのは男性の皮膚刺激がわずかに増えた点ですが、これも今後の確認が必要なレベルです。
どう調べたか
調査はインターネットを使った縦断研究です。日本のリサーチ会社のパネルから無作為に選ばれた1万305人を対象に、2013年にベースライン調査を実施。ウォシュレットの使用頻度と、痔や泌尿生殖器感染について医師の診断を受けたか、あるいは自覚症状があるかを尋ねました。
その後、1年後の2014年と3年後の2016年に追跡調査を行い、追跡期間中に新しく診断・経験した症状を集めています。同じ人を時間を追って見ることで、「先に使っていた人が後で発症するか」という、原因と結果の順番に踏み込める設計になっています。
ただし冷静に
とはいえ、この研究にも限界があります。まず、すべて本人の申告によるWebアンケートで、医師が実際に診察して確かめたわけではありません。記憶違いや、症状の感じ方の個人差も入り込みます。
そして繰り返しになりますが、痔がある人ほどウォシュレットを使うという逆因果の影響を完全には消し去れません。著者ら自身、横断で見えた関連の多くは逆因果らしいと述べており、「ウォシュレットが原因だ」と言い切れる結果ではないのです。男性の皮膚刺激がやや増えた点も、洗いすぎや水流の強さといった使い方の問題かもしれず、これだけで「危険」と結論づけるのは早計です。
結局どうなの
総合すると、ウォシュレットを普通に使うぶんには、痔や尿路感染を心配しすぎる必要はなさそうです。少なくとも約1万人を3年追っても、それらが増えるという証拠は見つかりませんでした。
気をつけたいのは、長時間あてっぱなしにしたり、水流を最強にして洗いすぎたりすること。とくに男性で肛門まわりの皮膚刺激がわずかに増えていたのは、過度な使用への注意信号と読めます。短時間・やさしい水流で、用が済んだら止める。そのくらいの距離感で付き合えば、過度に恐れる必要はないというのが、現時点でのいちばん落ち着いた見方です。
出典:Asakura K, et al. Relationship between bidet toilet use and haemorrhoids and urogenital infections: a 3-year follow-up web survey. *Epidemiol Infect*. 2018;146(6):763-770.(PubMedより。DOI)
※この記事は研究の紹介であり、医療助言ではありません。症状が続く場合は医療機関にご相談ください。