アスパラを食べた後のあの匂い、嗅げるのは10人に1人?
アスパラを食べた後の尿の独特な匂い。307人の研究では、それを嗅ぎ分けられたのは約10%だった。差は『匂いを出す側』ではなく『嗅ぐ側』の嗅覚にあり、遺伝的な体質とみられる。
「あれ、自分だけ?」の正体
アスパラガスを食べたあと、トイレで独特の匂いに気づく人がいます。一方で「そんな匂い、まったくしない」という人も。これ、実はどちらも正しいのかもしれません。
1980年に医学誌BMJで報告された研究は、この素朴な疑問に正面から取り組みました。結論を先に言うと――問題は「匂いを出すかどうか」ではなく、「その匂いを嗅ぎ分けられるかどうか」だったのです。
何がわかったのか
研究では307人を対象に、アスパラ摂取後の尿のにおいを調べました。主なポイントは次のとおりです。
- 尿をどんどん薄めていっても、あの匂いを嗅ぎ分けられた人は約10%だった
- 嗅ぎ分けられる「閾値(境目)」は、人々の間で二峰性(嗅げる人・嗅げない人にくっきり分かれる)だった
- 自分の尿で嗅げる人は、他人の尿でも嗅げた
この「自分の尿でも他人の尿でも嗅げる/嗅げない」という結果が決定的でした。もし「匂いを出す人・出さない人」がいるなら、他人の尿では結果がバラつくはず。でも嗅げる人は誰の尿でも嗅げた――つまり差は嗅ぐ側の能力にある、というわけです。
なぜ人によって違うのか
アスパラ尿の匂いのもとは、アスパラガスに含まれる成分が体内で分解されてできる硫黄を含む揮発性物質だと考えられています。面白いのは、この匂い物質はおそらく多くの人の尿に出ているのに、それを感じ取れるかどうかが人によって違うこと。
研究者は、これを遺伝的な嗅覚の個性(特定のにおいだけ感じにくい“嗅覚特異的無嗅症”のようなもの)と見ています。色の見え方や味の感じ方に個人差があるように、においの世界にも「この匂いだけ感じにくい」という体質があるのです。
どうやって調べたのか
この研究は、尿を段階的に希釈し、被験者がどの濃さまで匂いを嗅ぎ分けられるかを測る方法をとりました。自分の尿と他人の尿を区別して嗅がせることで、「出す側の問題」か「嗅ぐ側の問題」かを切り分けたのが巧妙な点です。
ただし、冷静に受け止めたい
この研究は古く、規模も小さいものです。「嗅げる人の割合」は集団によって幅があり、後の研究では半数以上が嗅げたという報告もあります。つまり「10人に1人」は一つの推定で、絶対的な数字ではありません。
とはいえ、「アスパラ尿の匂いがする・しない」が、出す側ではなく嗅ぐ側の体質で決まる、という発見はそのまま。次に誰かと「あの匂いする?」と話がかみ合わなくても、それはどちらかが間違っているのではなく、嗅覚の個性の違いかもしれません。
*出典:Lison, Blondheim & Melmed, "A polymorphism of the ability to smell urinary metabolites of asparagus." BMJ, 1980.*
*本記事は研究の紹介であり、医療アドバイスではありません。健康上の判断は専門家にご相談ください。*