性的に活動的な高齢者ほど「記憶テスト」の点が高かった? 英6,833人の大規模調査
英国の50〜89歳6,833人を調べたところ、性的に活動的な人ほど記憶や思考のテストの点が高い傾向が。ただし横断研究で因果は不明。脳と親密さの意外な関係を平易に解説。
「年をとっても、誰かと親しくし続けること」は、脳にも関係しているのかもしれません。英国の大規模な高齢者調査を分析したところ、性的に活動的な人ほど、記憶や思考のテストの成績が良い傾向が見つかりました。しかも、その関係は性別によって少し違っていたのです。ただし結論を急ぐ前に、ひとつ大事な注意点があります。
なぜ「セックスと脳」を調べるの?
一見すると無関係に思える「性生活」と「頭の働き」。でも、研究者たちが注目するのには理由があります。
まず、体の面。性的な活動はちょっとした運動になり、血のめぐりが良くなります。脳はとても多くの血液を必要とする臓器なので、血流が良いことは脳にとってプラスかもしれません。
次に、心と人とのつながりの面。パートナーと触れ合うと、安心感をもたらすホルモンや、気分を整える脳内の物質(神経伝達物質)が出ると考えられています。親密な関係はストレスをやわらげ、孤独感を減らすことにもつながります。
これまでの研究では「高齢の男性で、性的に活発な人ほど認知機能が高い」という報告が一部ありましたが、女性も含めてくわしく調べたものは少なく、研究が足りない分野でした。そこで今回、男女の違いまで踏み込んで分析されました。
何がわかったか
英国の大規模調査のデータを使い、次のことが示されました。
- 対象は 50〜89歳の6,833人(英国高齢化縦断研究=ELSA)。
- 性的に活動的な人ほど、認知テストの得点が高い傾向があった。
- 使われたテストは2種類。数の並べ替え(実行機能=段取りや判断の力) と、単語の思い出し(記憶力)。
- 年齢・学歴・経済状況・運動・気分の落ち込み・同居の有無・健康の自己評価・孤独感・生活の質といった、多くの要因を調整した後でも——
- 男性では、記憶と実行機能(数の並べ替え)の2つで有意な関連が残った。 - 女性では、記憶の1つで有意な関連がみられ、実行機能では有意ではなかった。
つまり、性別によってあらわれ方が異なる、というのがこの研究の面白いところです。
どう調べたか
使われたのは、英国の「ELSA」という長期にわたる高齢者追跡調査の、ある時点(第6波)のデータです。参加者に性生活の状況をたずね、同時に認知テストを受けてもらい、その関係を統計的に分析しました。
ポイントは、たくさんの「邪魔な要因」を計算で取り除いたこと。たとえば「もともと健康で運動好きな人」は、性的にも活発で、かつ認知テストの点も高いかもしれません。そうした影響をできるだけ差し引いても関連が残るかを確かめた、というわけです。
なお、性生活の情報は本人の自己申告でした。
ただし、ここは冷静に
ワクワクする結果ですが、過大評価は禁物です。
この研究は 「ある一時点」のデータを切り取って比べた横断研究 です。これは「同じ人を長く追って変化を見る」やり方ではありません。
そのため、前後関係(どちらが原因か)は判断できません。「性的に活動的だから脳が元気」なのか、それとも「もともと脳が元気で健康だから性的にも活動的でいられる」のか——この調査だけでは区別できないのです。さらに性生活の情報も自己申告なので、記憶ちがいや答えにくさといった偏りも入りえます。
ですから「セックスをすれば頭が良くなる」とは、この研究からは言えません。あくまで「両者に関連があった」という段階の話です。
それでも面白いのは
それでもこの結果が示すのは、年齢を重ねても、人とのつながりや親密さを大切にすることの価値かもしれません。
研究者たちは、こうした結果が「高齢期の健やかな性生活を、医療や福祉の場でもっと前向きに話題にしてよいのでは」という議論につながる、と述べています。性の話は年をとると語られにくくなりがちですが、運動や食事と同じように、心身の健康を支える要素のひとつとして、もっと自然に扱われてよいのかもしれません。
「親しい人と過ごす時間」「体を動かすこと」「孤独を減らすこと」——どれも脳に良さそうな要素です。それらが重なり合っている可能性を、この研究はそっと教えてくれます。誰かと心地よくつながっていること自体が、年齢を重ねた脳への小さな贈り物なのかもしれません。
出典:Wright H, Jenks RA. "Sex on the brain! Associations between sexual activity and cognitive function in older age." Age Ageing 2016;45(2):313-7.(PubMedより/DOI)
※本記事は研究の紹介であり、医療上の助言ではありません。