オーラルの相手が10人を超えると、のどのがんが4.3倍
生涯のオーラルの相手が10人を超える人は、のどのがん(HPV咽頭がん)のオッズが約4.3倍。原因はウイルスで、その多くはワクチンで防げます。
「のどのがん」と聞くと、多くの人はまずタバコやお酒を思い浮かべるかもしれません。けれども近年、まったく別のルートで増えているタイプがあります。原因はウイルス。性的な接触でうつる「HPV(ヒトパピローマウイルス)」です。アメリカの複数の病院が協力して行った研究では、生涯のオーラルセックスの相手が10人を超える人は、少ない人にくらべて、このHPVが関わるのどのがん(中咽頭がん)になるオッズが約4.3倍も高い、という結果が出ました。数字だけ見るとドキッとしますが、落ち着いて読むと、むしろ「防げる」という希望が見えてきます。
なぜ「のど」と「ウイルス」がつながるのか
HPVは、子宮頸がんの原因として知られるウイルスです。ありふれていて、多くの人が一生のうちに一度は感染し、たいていは体の免疫が自然に追い出してしまいます。ところが、ごく一部の人ではウイルスが長く居座り、細胞の設計図を少しずつ壊して、何年も、ときには何十年もかけてがんへと変わっていくことがあります。
このウイルスは、性的な接触によって、のどの奥(扁桃や舌の付け根のあたり)の粘膜にも入り込みます。つまり「のどのがん」と言っても、その正体は性感染症から始まるがんなのです。だからこそ、相手の人数や接触の機会といった「性行動」が、リスクの目印として浮かび上がってきます。
何がわかったか(数字で見る)
研究で示された主な数字を整理します。
- 生涯のオーラルセックスの相手が10人を超える人は、少ない人にくらべてHPV咽頭がんのオッズが約4.3倍(95%信頼区間 2.8〜6.7)
- 最初のオーラルセックスが若い(18歳未満 対 20歳超)ほどオッズが約1.8倍(喫煙や相手の人数を考慮しても)
- オーラルセックスの「累積の濃さ」が高い人ほどオッズが約2.8倍
- 血液検査でHPV16というウイルスのタンパク質に対する抗体が陽性の人は、オッズが桁違いに高かった
最後の「抗体」の数字がとても大きいのは、過去にこのウイルスにしっかり感染した証拠そのものだからです。要するに、リスクを動かしている本体は「ウイルスへの曝露」であって、人数はその目印にすぎない、と読み解けます。
どうやって調べたのか
この研究は「症例対照研究」という方法を使っています。すでにHPVが関わるのどのがんと診断された患者163人と、がんではない対照345人を集め、過去の生活や性行動についてアンケートで答えてもらい、両グループのちがいを統計的に比べたものです。アメリカの複数の医療機関で、2013年から2018年にかけて行われました。
この方法は、すでに起きたことを後からふり返って比べるため、現実的で効率がよい一方、「人数が多かったからがんになった」という因果の順番までは証明できません。あくまで「関連がある」ところまでを示すデザインです。
ただし、冷静に読みたい
ここが一番大事なところです。4.3倍という数字は、行為そのものが悪いという意味ではありません。相手の人数は「ウイルスに出会う機会が多かった」ことの目印であり、本当の犯人は性感染するHPVです。さらに、喫煙ものどのがんに影響することが知られており、生活習慣も無関係ではありません。だから一つの数字だけを切り取って、誰かを責めたり、不必要に怖がったりするのは正しい読み方ではありません。
そして、ここに大きな希望があります。このタイプののどのがんの多くは、原因であるHPVへの感染をワクチンで防げるのです。HPVワクチンはもともと子宮頸がんの予防として広まりましたが、同じウイルスが関わる以上、のどのがんに対しても予防につながると期待されています。性別を問わず、まだウイルスに出会う前の若い世代に接種する意義が大きい、と考えられています。
それでも、いちばん大切なのは
まとめると、こういうことです。のどのがんには、ウイルスがきっかけになるタイプがある。その背景には性的な接触によるHPV感染がある。そして、その多くは予防できる。
私たちにできることは、過去の人数を数えて落ち込むことではありません。これからウイルスに出会う機会を減らし、防げる手段を使うことです。具体的には、HPVワクチンという選択肢を正しく知ること、禁煙、そして気になる症状(片側だけ続くのどの違和感、首のしこり、飲み込みにくさなど)があれば早めに耳鼻咽喉科を受診すること。怖がるためではなく、自分と大切な人を守るために、この知識を使ってほしいと思います。
出典: Drake VE, Fakhry C, D'Souza G, et al. "Timing, number, and type of sexual partners associated with risk of oropharyngeal cancer." *Cancer*. 2021;127(7):1029-1038.(PubMedより/DOI)
※本記事は研究内容を一般向けにわかりやすく紹介したものであり、個別の医療行為を推奨・否定するものではありません。診断や治療、ワクチン接種については、必ず医師など専門家にご相談ください。